「なつきっ!」
透き通った声が聞こえる。
何度でも聞いていたい。
私にやすらぎを与えてくれる唯一の。
…だけど。
走ってきたのか髪が乱れてるし、息も荒い。
普段の静留からは想像もできないような。
そのことに、一瞬うれしさがこみあげてきたが、あの場面を思い出してしまう。
逃げたい。
泣いてるところなんて見せたくない。
そんな想いがぐちゃぐちゃに混じりあって、とにかく静留から離れたかった。
「なつき!待って!待っておくれやす…!!」
だけど、それは叶わず。
わずかな差で静留に手をつかまれ抱き寄せられようとする。
「やめ…!!」
その手をふりほどくこうとしても。
ふりほどくなんて、できなくて。
あの人の腕の中に。
こんな顔を静留に見られたくない。
「離れろ…!!」
なつきは静留の胸をぽかぽかと叩いて、必死に抵抗する。
「はなせっ」
「嫌どす」
「離せったら!!」
「いやや!!」
さらに力をこめて抱きしめられた。
「なつき…堪忍。ほんま堪忍なぁ」
「だから、泣かんといて…」
静留は眉をせつなげによせて、何度も繰り返す。
何度も何度も
子供をあやすように背中をゆっくりと撫でながら。
そんなことしたら、また泣いてしまうではないか。
ただでさえ、静留の甘い香りと少し汗混じった匂いに涙しそうなのに。
こんなのにも必死につなぎとめようとしてくれてるのに、どうしても素直になれない自分がいて。
反対にこの腕のぬくもりを愛おしいと想っている自分もいて。
…―やっぱり私はお前じゃなきゃ
「…っつ…し、ずっ…」
そう思うと、一気に気がゆるんでしまった。
ほら、やっぱり泣いてしまったじゃないか。
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